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「東京の液状化予測図」作成の根拠

1.液状化の検討地域

液状化は緩い砂が堆積した場所で生じることから、下記の条件に該当する土地を含む東経139度15分以東を検討対象としました。このような土地においては、関東大震災や東日本大震災でも実際に液状化が発生しています。

  1. 緩い砂が堆積した、臨海部の埋立地を含む低地全域
  2. 場所により緩い砂の堆積がある、台地・丘陵地を侵食して流れる中小河川沿いの低地(河谷底)

東経139度15分以西は液状化しにくい台地・丘陵地が大部分であり、上記に該当する土地が僅かであること、また過去に液状化発生の報告がないことから対象外としました。

図-1 液状化予測の対象地域

2.検討に用いたボーリングデータ

検討に用いたボーリングデータは、東京都土木技術支援・人材育成センターが所有するボーリングデータのうち、液状化検討が可能な約76千本としました。

3.地下水位の設定

液状化計算に用いる地下水位は、下記に基づき設定しています。

  1. 地下水位分布図(図-2)
  2. ボーリングデータの孔内で測定した水位が図-2の水位より浅い場合は、ボーリングの水位データ
  3. 台地・丘陵地は液状化しにくい地形条件であることから、ボーリングデータの孔内水位 に関わらず5mで固定

図-2 地下水位分布図

4.液状化予測で想定した地震の揺れの強さ

本液状化予測では、建物の基礎地盤となる地層(工学的基盤)を一律の強さで揺らした際の地表面の揺れを計算で求め、それをもとに液状化判定を行っています。

◆ (1)工学的基盤での揺れの強さ

揺れの強さは、大正12年(1923年)の関東大震災において、文京区本郷の東京帝国大学(現在の東京大学)で記録された揺れを根拠にしています。この記録をもとに工学的基盤(東京礫層)における揺れの強さを計算した結果から、200Galを最大加速度として設定しています。

◆ (2)地表面の最大加速度

工学的基盤の揺れによる地表面の揺れの大きさは、以下のとおり算定しました。

  1. 検討地域にある300地点のボーリング資料から地表の最大加速度を計算
  2. 地盤の増幅度は波形によって異なることから、過去に観測された3種類の波形で計算し、ボーリング地点ごとに最大値を採用
  3. 沖積層の厚さに従って5つの地域に区分し、平均的な加速度を算定

算定された地表での揺れを、地表面加速度分布図(図-3)に示します。沖積層が厚いほど最大加速度は小さく、最大速度は大きくなりますが、これは関東大震災の際に沖積層が厚いほど木造建物の被害が大きかったこと、また木造建物の被害は最大速度に比例するという過去の傾向と一致していると考えられます。
なお、この際の推定される震度(計測震度)は、震度6弱となります。

図-3 地表面加速度分布図

図-4 地表面加速度分布図と東日本大震災の観測値との関係

5.液状化予測図作成の流れ

液状化予測図の作成フローを、図-5に示します。
(下図の枠内をクリックすると、各項目の説明にジャンプします。)

6. ボーリングデータによる液状化判定

ボーリングデータを用いて地点毎に液状化判定を行う。
液状化判定は、FL値(液状化抵抗率)およびPL値(液状化指数)により実施する。
PL値により液状化被害の可能性をランク付けをする。

7.地図情報による液状化判定

  • 液状化履歴図
  • 土地条件図
  • 旧版地形図に基づく土地利用(水系変遷図)
  • 旧版地形図に基づく土地利用(湿地・水田分布図)
  • 埋立工事履歴図

8.液状化の可能性の総合判定

「ボーリングデータによる液状化判定」と「地図情報による液状化判定」の結果を総合的に判断して、メッシュごとに液状化の可能性を決定する。

9.液状化予測図の表示方法

液状化予測図の表示区分は、
「液状化の可能性が高い地域」「液状化の可能性がある地域」
「液状化の可能性が低い地域」の3段階で表示する。

図-5 液状化予測図作成の流れ

6.ボーリングデータによる液状化判定

ボーリングデータによる液状化判定は、道路橋示方書に示された方法により行いました。判定方法は以下のとおりです。

7.地図情報による液状化判定

液状化に関する5種類の地図情報から、液状化の可能性を総合的に判定しています。(表-1)

地図情報の分類
①液状化履歴図 ②土地条件図 ③旧版地形図に基づく
土地利用
水系変遷図
(明治・大正・昭和)
④旧版地形図に基づく
土地利用
湿地・水田分布図
(昭和)
⑤埋立工事履歴図
液状化の可能性
  • 液状化現象あり
  • 河川、水涯線及び水面
  • 頻水地形
  • 旧河道
  • 旧水面上の盛土地、埋立地
  • 千拓地
  • 過去の水系が“すべて砂質土”で埋土されている
  • 湿地
  • 砂層土
  • 砂、粘土不規則
  • 旧水面上の高い盛土地
  • 凹地、浅い谷
  • 谷底平野、低地
  • 氾濫平野
  • 海岸平野
  • 自然堤防
  • 扇状地
  • 高い盛土地
  • 三角州
  • 後背湿地
  • 自然堤防
  • 盛土地
  • 麓屑面
  • 過去の水系が“一部砂質土”で埋土されている
  • 超粘土
  • 昭和初期までのゴミ処理場
  • 属性無し
  • 山地、山麓地、丘陵
  • 台地(平坦地と台地斜面を含む)
  • 砂(礫)洲
  • 砂(礫)堆
  • 廃棄物

表-1 判定に用いる地図情報一覧

◆ (1)液状化履歴図

過去の地震による液状化履歴として、以下の資料を収集整理し取りまとめたものが液状化履歴図(図-6)です。一度液状化した地層が再液状化する事例が報告されていることから、地図情報の中でも重要なものです。

  1. 大正12年(1923年)関東大震災での低地の液状化
    … 昭和62年(1987年)に「東京都土木技術研究所」が発表した「東京低地の液状化予測」の調査結果による
  2. 大正12年(1923年)関東大震災での土地の陥没
    … 大正14年(1925年)に旧・商工省地質調査所が出版した「関東地震調査報告」の被害状況による
  3. 平成23年(2011年)東日本大震災での液状化
    … 東京都が調査した被害報告にの公開データを反映

図-6 液状化履歴図(メッシュ表示)

◆ (2)土地条件図

土地条件図は、主に地形分類(山地、台地・段丘、低地、水部、人工地形など)について色分け整理した土地情報です。液状化は、比較的新しい時代に堆積した地盤で発生する可能性が高く、また土地の形態や性状と関連することから、関東大震災における液状化被害状況から作成した表-2により、地形に応じた液状化の可能性を判定しています。

土地条件図
液状化の可能性
  • 河川、水涯線及び水面
  • 頻水地形
  • 旧河道
  • 旧水面上の盛土地、埋立地
  • 千拓地
  • 旧水面上の高い盛土地
  • 凹地、浅い谷
  • 谷底平野、低地
  • 氾濫平野
  • 海岸平野
  • 三角州
  • 後背湿地
  • 自然堤防
  • 盛土地
  • 麓屑面
  • 自然堤防
  • 扇状地
  • 高い盛土地
  • 山地、山麓地、丘陵
  • 台地(平坦地と台地斜面を含む)
  • 砂(礫)洲
  • 砂(礫)堆

表-2 液状化の発生と地形地質の分類一覧

図-7 土地条件図(平成28年度版) 出典:国土地理院 地理院地図より

◆ (3)水系変遷図

明治、大正、昭和初期の旧版地形図から水域、湿地、砂州、海を抽出した図面です。旧河道や池などの水系跡では、砂で埋められている場合その砂が液状化する可能性があるため、変遷図から「すべて砂質土で埋土されている」「一部砂質土で埋土されている」かを判断し、液状化の判定をしています。

1909年(明治42年)

1925年(大正14年)

1937年(昭和12年)

図-8 明治・大正・昭和期にかけての水系の変化の例(その1)
墨田区付近(背景は現在の地形図)

1909年(明治42年)

1925年(大正14年)

1937年(昭和12年)

図-9 明治・大正・昭和期にかけての水系の変化の例(その2)
足立区南西部(背景は現在の地形図)

◆ (4)湿地・水田分布図

昭和初期の旧版地形図から湿地、水田、乾田、沼田、荒地を抽出した図面です。関東大震災における液状化被害状況の分析結果から、湿地の領域では液状化の可能性が高かったため、旧地形が湿地かどうかを判断し、液状化の判定をしています。

図-10 水系・湿地水田分布図(低地)

◆ (5)埋立工事履歴図

港湾地域は、埋立の区画、年代により埋立土の種類、土性が異なると考えられるため、それらを埋立工事履歴図(図-11)に取りまとめ、液状化の可能性を判定しています。

図-11 埋立工事履歴図

8.液状化の可能性の総合判定

液状化可能性の最終的な判定は、「6.ボーリングデータによる液状化判定」と「7.地図情報による液状化判定」を総合して、メッシュ(次項参照)ごとに3段階(大、中、小)で決定しています。総合判定の考え方は、下記のとおりです。

  1. 液状化履歴があるメッシュは可能性大とする
  2. ボーリングデータが無いメッシュは地図情報の判定とする
  3. 「1」「2」以外はクロス判定とする
    • ボーリング判定と地図情報判定の結果が同一の場合、両者の判定結果を採用
    • ボーリング判定と地図情報判定の結果が1ランク異なる場合、判定結果(液状化の可能性)の高い方を採用
    • ボーリング判定と地図情報判定の結果が2ランク異なる場合、両者の中間的な評価(液状化の可能性中)を採用

9.液状化予測図の表示方法

液状化予測図は、昭和48年の行政管理庁告示に基づく250mメッシュでの判定、表示としており、判定結果はメッシュに含まれる地域の液状化可能性を平均的に表すものになります。それぞれのメッシュには、図-12のとおり3段階の判定結果を色別表示しています。

図-12 液状化予測図の表示方法

10.平成24年度改訂版からの変更点

前回の平成24年度改訂版と今回の令和3年度改訂版との主な変更点は表-3のとおりです。

項目 平成24年度改訂版 令和3年度改訂版 備考
ボーリング数 19,691本 75,931本
表示方法

領域判定

メッシュ判定

今後追加されるボーリングデータを液状化予測図に自動プログラムにより反映させるため、メッシュ判定方式に変更
判定式 東京都土木技術研究所(当時)による独自の判定式 道路橋示方書式に示された一般的な判定式 過去の液状化履歴との整合性・更新性を重視し変更
地図情報 ①液状化履歴図
②土地条件図
③砂層分布図
④礫層分布図
⑤旧版地形図に基づく土地利用(水系変遷図)
⑥旧版地形図に基づく土地利用(湿地・水田分布図)
⑦埋立工事履歴図
①液状化履歴図
②土地条件図
③旧版地形図に基づく土地利用(水系変遷図)
④旧版地形図に基づく土地利用(湿地・水田分布図)
⑤埋立工事履歴図
記載内容が重複した図面等を整理
液状化履歴図 防災科学技術研究所(J-SHIS)の公開データを追加、活用

表-3 平成24年度改訂版からの変更点